分子・原子・原子核レベルの微視的視点で
物質・デバイスの性質を解明する
本拠点代表の丸本一弘は、世界で初めて、「オペランド電子スピン共鳴」という解析技術を開発しました。この技術により、ソーラーパネルや有機ELディスプレイの材料劣化をリアルタイムで分子・原子レベルで解析できるようになりました。
本センターでは、この技術を拡張し、有機無機材料やデバイス、生体物質などの性質・機能・性能を微視的視点から解明し、統一的に理解することを目指しています。
従来の研究は経験と勘に頼る部分が多く、マクロな分析が主でしたが、ミクロな視点からの解明により、研究期間の短縮や開発コストの削減が期待できます。

電荷の持つ電子スピンや核スピン状態を分子・原子・原子核レベルの
微視的な視点からミクロに解析し、諸現象を解明

次世代の太陽電池として注目されるRPスズペロブスカイト太陽電池の
性能向上メカニズムを解明
この研究では、電子スピン共鳴技術を用いて、太陽電池内部の電荷の状態や動きを詳細に観測しました。
主な成果は以下の通りです。
- 正孔輸送層とRPスズペロブスカイトの界面にエネルギー障壁が形成されることを確認しました。
このエネルギー障壁が、電荷の再結合を抑制し、太陽電池の効率を向上させることが分かりました。 - 太陽光照射下での電子移動を観測し、これによりデバイスの効率がさらに向上することが明らかになりました。
特に、光照射による電子の移動が、電荷の分離と輸送を促進し、太陽電池の性能を高めることが示されました。 - 材料の安定性と耐久性についても調査が行われ、RPスズペロブスカイトが長期間にわたり高い性能を維持できることが確認されました。
この研究は、高効率で長寿命な太陽電池の開発に向けた重要な手がかりを提供するものであり、今後のエネルギー技術の進展に大きく貢献することが期待されています。

プレスリリース(2025.1.9)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20250109190000.html
掲載論文
Operando spin observation elucidating performance-improvement mechanisms during operation of Ruddlesden-Popper Sn-based perovskite solar cells
【掲載誌】 npj Flexible Electronics
有機半導体への電荷の高密度注入により電子相関の発達を初めて観測
この研究では、元々電荷キャリアを持たない単結晶有機半導体に、今までにない高密度な電荷キャリア (4 分子あたり 1 個の電荷キャリア)を注入することに成功しました。
主な成果は以下の通りです。
- 有機半導体に高密度に電荷を注入していくと絶縁体から金属に転移し、さらに電子相関効果が発達していく様子をホール効果測定を通して初めて観測しました。
理論解析の結果、電荷秩序相が誘起されている可能性があることが分かりました。 - これまで電子相関の影響は導体(銅酸化物や有機導体など)を中心に調べられてきましたが、有機半導体でも電荷注入によって電子相関効果が発現することを見出しました。
この研究は、現代物理学の中心的課題であり続ける電子相関発現のメカニズム解明に大きく貢献し、量子エレクトロニクス応用にも役立つことが期待されます。

プレスリリース(2025.4.10)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20250410180000.html
掲載論文
Evolution of electronic correlation in highly doped organic two-dimensional hole gas
【掲載誌】 Nature Communications