プレスリリース

鉄酸化物薄膜作成中にリアルタイムでその性質を解析する技術を開発 (2025.09.10)

 金属の酸化物や窒化物の薄膜は、電子デバイスやエネルギー材料として広く利用されています。その作製方法の一つである反応性スパッタ法は、ターゲット金属と酸素や窒素などのガスを反応させて薄膜を堆積する汎用的な手法ですが、ターゲット表面が金属状態と化合物状態の間を移行するため、膜の成長速度や組成が大きく変動し、同じ条件でも膜質が再現しにくいという課題があります。特に、成膜中に材料の化学状態や堆積速度をリアルタイムに把握する有効な方法は限られていました。

 本研究グループは、反応性スパッタ中に発生するプラズマの数百本以上の発光スペクトルに対して、主成分分析という機械学習手法を適用し、形成中の薄膜の状態を解析しました。その結果、スペクトルの第一および第二主成分のみから、鉄酸化物薄膜の価数状態を正確に識別できること、また、膜の成長速度を高精度に予測できることを実証しました。本手法は、特定の波長のスペクトル光線や水晶振動子ではなく、全波長情報を活用する点が大きな特徴です。さらに、それぞれの酸化物相を特徴付ける主成分の組み合わせから、価数状態に対応する代表スペクトルを再構築でき、物質同定に有効であることが示されました。

 本手法は、反応性スパッタ法のプロセス理解を深めると同時に、成膜のリアルタイム制御技術として応用できる可能性があります。将来的には、他の金属酸化物・窒化物材料や成膜プロセスの自動制御システムへの展開が期待され、電子材料やエネルギーデバイスの高性能化や製造効率向上に寄与すると考えられます。 

 詳細は筑波大学のプレスリリースをご覧ください。

      筑波大学数理物質系  柳原英人教授